
日本の多くの夫婦が法律婚を選択していると思いますが、近年は価値観や考え方が多様化してきたせいか事実婚を選択する夫婦も増えてきています。
本記事では、法律婚と事実婚の違いについて、一覧表を用いながら詳しく解説してまいります。
この記事が、法律婚か事実婚で迷われている方の一助となれば幸いです。
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法律婚、事実婚とは?
法律婚とは、法律(民法)の規定に従った婚姻のことです。
民法では戸籍法の規定に沿った「婚姻届」を市区町村役場の戸籍係に提出することによって法律上の婚姻の効力が生じる、と規定しています。
婚姻届を作成し提出した婚姻が法律婚というわけです。
他方で、事実婚は、婚姻届を作成しない、提出しない婚姻のことです。
事実婚については民法に規定がありませんが、法律の世界では「内縁関係」という言葉で表現されることもあります。
事実婚は、第三者から見ると法律婚との見極め、事実婚なのか否か(単なる同棲ではないのか)の見極めが難しく、かつ、事実婚であることを公的に認めてもらう手段もありません。
事実婚であることを証明するには、住民票などの各種書類等を活用するほかありません。
法律婚と事実婚の違い
法律婚と事実婚の違いを表にまとめると以下のとおりとなります。
項目 | 法律婚 | 事実婚 | |
---|---|---|---|
手続き | 同じ戸籍 | 入れる | 入れない |
住民票の続柄記載 | 妻 | 妻(未届) | |
社会保険 | 健康保険の被扶養者 | なれる | |
国民年金の第3号被保険者 | なれる | ||
遺族年金等の受取人 | なれる | ||
会社の家族手当 | もらえる | 会社による | |
生活 | 結婚式 | できる | |
公営住宅の入居 | できる | ||
住宅ローンの連帯債務者 | なれる | ||
携帯電話の家族割 | 使える | ||
保険 | 生命保険の死亡保険金受取人 | なれる | 会社による |
自動車保険の家族割 | 使える | ||
個人賠償責任保険の家族の対象 | 対象 | 会社による | |
税金 | 配偶者控除・配偶者特別控除の利用 | できる | できない |
相手を保険金受取人にした生命保険料控除 | できる | できない | |
相続 | 相続権 | あり | なし |
子供 | 戸籍 | 入れる | 入れない |
親権 | 共同 | 妻 | |
扶養義務 | 共同 | 妻 | |
相続権 | あり | なし | |
離婚(解消) | 財産分与・慰謝料・養育費の請求 | できる | |
年金分割 | できる |
以下では、表で取り上げた項目のうち、特に重要な項目に絞って解説してまいります。
戸籍
法律婚の場合、婚姻届に夫婦のいずれの氏を称するかを記載しなければならず、氏を称するとした人の戸籍に入ります(たとえば、妻が夫の氏を称するとした場合、妻は夫を筆頭者とする戸籍に入ります)。
他方で、事実婚の場合、そもそも婚姻届を提出しませんから、氏や戸籍は別々のままです。
社会保険
事実婚の場合でも、社会保険上は、法律婚と同様に扱われます。
たとえば、夫が会社員で、妻が専業主婦という場合、妻の収入要件(年間130万円未満など)を満たす場合は、妻は夫の健康保険の被扶養者、国民年金の第3号被保険者として扱われます。
また、夫が死亡した場合、妻は遺族とみなされ、遺族年金を請求することも可能です。
もっとも、いずれの場合も、各種書類等によって事実婚であることを証明することが必要となります。
生命保険の死亡保険金の受け取り
事実婚の場合でも、生命保険の死亡保険金を受け取ることは可能です。
もっとも、保険会社によって、夫婦に戸籍上の配偶者がいないこと(離婚していること)、保険会社が定める期間、同居していること、生計を一にしていること、などの要件を満たす必要があります。
また、上記の要件を証明しない限り、受取人になることはできません。
受取人になるための要件は保険会社によって異なりますから、会社によって受け取れる場合と受け取れない場があります。
税金
配偶者控除も配偶者特別控除も、納税者(たとえば、夫)の所得から一定額を差し引いて所得税を安くする制度のことです。
社会保険の場合と異なり、税法上の「配偶者」とは、あくまで法律上の婚姻関係にある人、つまり、法律婚によって婚姻した人を指します。
つまり、事実婚の場合、配偶者控除・配偶者特別控除を使うことができません。
その結果、納税者の所得税が高くなる可能性があります。
相続権
法律婚では、配偶者は常に被相続人の相続権を持つ相続人となることができます。
他方で、事実婚では相続人となることができません。
たとえば、夫、妻、子供・孫なしの家族構成で、夫が死亡した場合、法律婚では妻は夫(被相続人)の相続人となります。
他方で、事実婚では、妻は夫の相続人なることができず、夫の親あるいは兄弟姉妹が相続人となります。
この場合、夫が妻に遺産(相続財産)を引き継ぐには、あらかじめ遺言書を作成して「遺贈」という手続きを取らなければなりません。
もっとも、夫の親が相続人となる場合、親には相続財産の最低の取り分である遺留分が補償されていますから、遺留分を侵害しないような遺言書を作成しなければなりません(被相続人の兄弟姉妹には遺留分は補償されていません)。
なお、事実婚の妻が、遺言によって夫の遺産を引き継ぐことができたとしても、配偶者控除などの各種控除を使うことができず、引き継いだ遺産の内容によっては相続税を納付しなければならない可能性もあります。
子供
法律婚で、夫婦の間に子供が生まれた場合は、子供の戸籍は筆頭者(通常は夫)の戸籍に入ります。
氏は夫婦の氏を称します。
親権は夫婦共同で行使します。
親が死亡した場合、配偶者とともに相続人となることができます。
たとえば、夫、妻、子供1人の家族構成で、夫が死亡した場合は、妻と子供が夫(被相続人)の相続人となるということです。
他方で、事実婚で、子供が生まれた場合は、子供の戸籍は妻(母)を筆頭者とする戸籍に入ります(前述のとおり、夫と妻の戸籍は別々です)。
氏は母の氏を称します。
親権は母が単独で持ちます。
母は子供を扶養する義務を負いますが、夫(父)と子供は法律上の父子関係にありませんから、父は子供の扶養義務を負いません。
また、子供は母の相続人となることはできますが、父の相続人となることはできません。
なお、父と子供との間に法律上の父子関係を発生させるためには「認知」が必要です。
子供を認知すると、父も子供に対する親権を持つことができます(ただし、父と母が共同で親権を行使することはできません)。
母から父へ親権を移すためには一定の手続きが必要です。
父は子供を扶養する義務を負います。
子供は父の相続人となることができます。
子供は「非嫡出子」という身分ですが、法定相続分(法律で定められた相続財産の取り分)は嫡出子と同じです。
子供を父親の戸籍に入れるには、認知をした上で、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可の申立て」を行い、許可を得た後に、市区町村役場で入籍届を行う必要があります。
子供を母親の戸籍に入れたままの場合(子供が母の氏を称する場合)も、母親の戸籍の「父」の欄に父の名前が記載され、父と子供との間に父子関係が生じていることが明記されます。
離婚(解消)
法律婚では、財産分与、養育費、慰謝料などの請求が可能です。
また、事実婚も、婚姻関係に準ずる関係と認められますから、財産分与、解消に伴う慰謝料を請求することが可能です。
養育費を夫に請求する場合は、夫が子を認知し、法律上の父子関係が認められる場合に請求することが可能です。
なお、事実婚を解消した場合に取得した財産分与や慰謝料には贈与税が発生することに注意が必要です。
まとめ
法律婚も事実婚もそれぞれメリット、デメリットがあります。
何をメリットととらえ、何をデメリットととられるかは人それぞれで異なると思いますが、双方をよく検討してから法律婚を選択するのか、事実婚を選択するのか考えましょう。
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