「うちの夫はモラハラ夫で…」とか、「モラハラが原因で彼氏と別れた」といったような話を聞くことが増えてきました。一昔前はなかった「モラハラ」という言葉は、最近では離婚原因の一つとしてもあげられるほど市民権を得ています。

モラハラとは「モラル・ハラスメント」の略で、「精神的な暴力」のことを総じてモラハラと呼びます。モラハラといえば職場の上司から被害を受ける人も少なくありませんが、付き合っている恋人や夫婦間、家族などのプライベートな関係でもモラハラは問題となっています。

相手がいわゆる「モラハラ夫」「モラハラ妻」だった場合、離婚して慰謝料を請求することはできるのでしょうか?

離婚の原因になる?モラハラの具体例

もしもモラハラで離婚をしたいと思ったとしても、自分がモラハラだと感じていることが客観的に見るとモラハラとは言えないということもあります。

夫婦間のモラハラとは、具体的にはどんなことを指すのでしょうか?よくある被害事例をピックアップしました。こういったことに当てはまるのであれば、モラハラを原因として離婚したり、慰謝料を請求したりといったことがしやすいと言えます。

無視する、話しかけない

よくあるのが、話しかけてこない、話しかけても無視される、同じ空間にいるのに誰もいないかのように振舞われる、といったものです。これは夫婦二人でいるときだけではありません。例えば夫婦と子供や両親、友人などがいるような場でもこのタイプのモラハラは行われます。

数人で会話しているとき、誰かが妻に話題を振って妻が答えようとしたところで、モラハラ夫が会話に割り込んできて話題を変えてしまう。妻が何か言おうとしたところで嫌な顔をして、話してはいけないというような空気を出す。こういったこともあるようです。

自分を正当化し、何でも相手のせいにして責める

同じ家で毎日暮らしていれば、些細なことで衝突することもあります。しかし悪質なモラハラ夫は、自分の非を認めることがありません。例えば外出時に、夫の持ち物が見つからずに出かける予定の時間を大きく過ぎてしまったとしても、「わかりづらいところにものを置いているお前が悪い」と相手を責めるのです。

このようなことは、些細なことから大きなことまで起きてくるので、被害を受ける妻としては次第に「自分のせいで生活が回らないのではないか」「自分のせいで夫を不快にさせているのではないか」と自分で自分を責め始めてしまいます。

「うじ虫」「消えろ」など言葉汚く人格を否定してくる

モラハラ夫の中には妻のことを無視するだけではなく、明確に言葉の暴力を使ってくる人もいます。夫婦喧嘩のときについ感情的になって汚い言葉を投げかけた、という程度ではなく、日常会話の中に誹謗中傷の言葉が織り交ぜられていくのがモラハラの特徴です。

夫に何かを質問しただけなのに、「話しかけてくるな、鬱陶しい」と言われたり、「うるさい」「消えろ」と言われたりといったこともよくあるケースです。

大切にしているものを捨てられる

モラハラ夫は、妻のことを対等な人間と見ていません。自分よりも立場が下のものとして見ています。相手の人格を尊重するという視点が欠落しているので、妻が大切にしているものを捨てることに抵抗がありません。

むしろ、害意を持って意図的に妻の大事なものを捨てるという行動に出ていることも多いのです。

過剰に束縛してくる

モラハラ夫は妻のことを対等な人として見ているのではなく、自分が支配しているモノとして見ています。そのため、自分の支配下に置かなければ気がすまず、細かく行動を管理してくることも少なくありません。

そして、妻が出かける時には、誰と出かけるのか、どこに行くのか、どんなスケジュールで動くのかなどを報告させたりします。また、「〜をしてはいけない」「何時になったら必ず電話をしろ」など、行動を縛りつけるようなことも珍しくありません。

不安になるような言葉を残し、萎縮させる

モラハラ夫と会話をしているときに、よくわからないことを言われたので聞き返したら、ため息をつかれて「どうせお前にはわからないだろうな…」などと独り言のように言われた経験があれば、これもモラハラ被害の一つです。

「どうせ言っても無駄だと思うけど」「どうせわからないと思うけど」など、モラハラ夫は漠然と不安にさせるような言葉を残すことがあります。そうされることで、妻は「聞き返すのが怖い」「会話をするのが億劫」などの感情を抱くようになるのです。

周囲の人に妻(または夫)のことで嘘をつく

妻が家事や子育ては人並みにやっているのに、夫が他の人の前で「こいつは家で寝てばかりで、掃除なんてしたことがない」「子供をほったらかして夜まで帰ってこない」などの嘘を平気でつくこともあります。このような行動も、モラハラ夫に見られるものです。

このような嘘はすぐにバレるものですが、そんなことは関係ありません。本人には「嘘をついている」という意識がなく、本当のことを話していると思っている人も少なくないのです。それは、妻が家で寝てばかり・育児をしない、といった嘘が、モラハラ夫の中では事実として捉えられてしまうからです。

要するにモラハラ夫としては、他人に本当のことを話していると思っているのです。このような異常な嘘というのも、モラハラの特徴の一つです。

モラハラが「婚姻を継続し難い重大な理由」と言えるかがカギ

精神的な暴力であるモラハラですが、いくら愛し合って結婚したとしても、こんな人が夫では、一刻も早く縁を切ってしまいたくなりますよね。しかし、モラハラ夫の特徴の一つに、別れを承諾しないという特徴があります。

お互いが離婚に合意すれば話は簡単ですが、一方が合意しないとき、離婚は調停または裁判という手続きをとることになってしまいます。そしてそうなると、裁判官などの第三者が「離婚をするのが妥当かどうか」を判断することになります。

といっても裁判官が自由に判断するのではなく、民法上の離婚原因に沿って判断されることになります。民法770条には、離婚原因として以下の5つが挙げられています。

  1. 配偶者の不貞行為(不倫など)
  2. 悪意で遺棄されたとき(介護が必要なのに、勝手に家を出て行ったなど)
  3. 配偶者が行方不明などで、生死が3年以上明らかでない
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
  5. その他婚姻を継続し難い重大な理由がある

夫からのモラハラが、5番目の「その他婚姻を継続し難い重大な理由がある」という理由に当てはまれば、離婚原因として認められます。

離婚調停や離婚裁判のときに、妻が「これはモラハラだ」と思っている行為が本当にモラハラといえるかどうか、「その他婚姻を継続し難い重大な理由がある」といえるかどうかの判断は、裁判官が行うことになります。

そのため被害を受けている側としては、夫がモラハラをしていて自分がどんな被害を受けているかということをしっかり主張する必要があります。これについては、後から詳しく解説します。

モラハラ被害で離婚したら慰謝料はどれくらい?その相場とは

夫の行為がモラハラに当たるとされれば、精神的に苦痛を受けたとして、妻は夫に対して慰謝料を請求することができます。では、請求できる慰謝料はどれくらいなのでしょうか?

慰謝料の相場には幅がありますが、一般的には数十万円〜300万円くらいとされています。慰謝料の請求がどれくらい認められるかは、基本的に以下のような要因が考慮されます。

  • モラハラを受けていた期間
  • モラハラの言動の内容の悪質さ
  • 被害を受けた側の精神的苦痛(精神疾患の程度など)
  • モラハラをした側の経済力

やはり、モラハラを受けた側がどれだけ精神的苦痛を受けたか、ということは大きいようです。あまりにストレスがたまると、うつ病や自律神経失調症などの精神疾患を引き起こすこともありますし、中には実際に、夫のモラハラが原因で心療内科に通院し続けている人もいます。このような疾患の程度が重ければ、やはり慰謝料も高額になる傾向があるということです。

モラハラの程度がさほど高くはないにしても、加害者側と被害者側の経済力のバランスなどによっては、慰謝料が高めに認められることもあります。例えば、モラハラ夫で高額所得者・妻は専業主婦で被害者というような場合です。

モラハラで離婚するときに押さえておきたい5つのこと

1.話し合いにならず、協議離婚は困難なことが多い

モラハラ夫は、口では妻に対して「お前なんかと結婚したせいでこんなことになった」「今すぐ出て行ってくれ」などの暴言を吐くことも少なくありません。しかし、いざ妻が離婚しようとすると「別れるつもりはない」などと離婚を拒否してきます。

しかし離婚を拒否したからといって、自分の言動を改善して夫婦仲をよくしよう、問題を解決するために自分が努力しようとする人は少なく、基本的に自分を正当化し、相手に非があるという考えは変わりません。

そのため、モラハラ夫とは正常に話し合うことが難しく、協議離婚は期待できないのです。もしもそれでも協議離婚で解決させたいという場合は、当事者だけで話し合うのではなく、弁護士などの第三者を間に入れることをお勧めします。

2.調停や裁判を覚悟する

民法では協議離婚の他には調停離婚と裁判離婚が認められていますが、上に書いたようにモラハラ夫とは円満に話し合いで離婚することが難しいもの。そうすると、協議離婚ができない結果、調停離婚や裁判離婚という方法を取らざるをえません。

話し合いで協議離婚ができるなら、当事者同士で解決することもできますが、調停や裁判となるとなかなかそうはいきません。

3.被害がひどいなら別居して身を守る

モラハラの被害者の多くは、「自分に非があるのではないか」「自分さえ頑張れば、もとの優しい夫に戻ってくれるのではないか」というようなことを考える傾向にあります。これはモラハラ夫の特徴として、気を許すまでは優しかったり、他人の前では優しい夫を演じたりする人が多いからです。

また、日常的に人格を否定されることによって洗脳状態になってしまうことが原因の一つとも考えられています。このままモラハラ夫と一緒に生活していると、どんどん自己肯定感が失われることになります。そうなるまえに、できれば早い段階で別居して自分の身を守ることも大切です。

4.生活費が請求できる「別居離婚費用分担請求の調停」をチェック

しかし、別居すると夫が生活費を渡してくれない可能性もありますよね。夫婦には相互扶助義務があるので、妻に十分な収入がなければ夫が扶養する義務があるのですが、「勝手に出て行った妻に生活費の面倒まで見る義理はない」と言ってのけるモラハラ夫も少なくありません。

生活が苦しくなることを防ぐためにも、離婚が成立するまでの生活費を夫に請求できる「別居離婚費用分担請求の調停」という手続きをとることも視野にいれておきましょう。この手続きをとると、最終的に夫婦の間で話がまとまらなかったとしても、生活費の支払いについて、裁判所が妥当かどうかを判断してくれることになります。

別居離婚費用分担請求の調停は、離婚調停と合わせて申し立てることもできますし、別居離婚費用分担請求の調停だけを別に申し立てることもできるものです。

5.モラハラの証拠を残す

離婚調停や離婚裁判では、モラハラがあったかどうかについて裁判官が判断します。被害を受けた方は、いかに自分がモラハラの被害を受けてきたか、それによってどれくらいの精神的苦痛を受けてきたかといったことを、裁判官に対してアピールしなければなりません。

しかしいくらそれを口で説明しても、証拠がなければ信憑性がありません。だから、モラハラの被害を受けているならば証拠を残しておきましょう。たとえば、会話を録音しておく、心療内科などに通っているならその診断書や領収書を保存しておく、メールを残しておくなどと行ったことが必要です。

「こんなもの証拠になるのかわからない」と悩んだ時は、とりあえず保存しておきましょう。証拠は少なすぎて困ることはあっても、多すぎて困ることはありませんから。もしくは、弁護士に相談することも有効です。

モラハラで離婚や慰謝料を考えているなら、早い段階で弁護士に相談を

もしもモラハラ夫の被害に遭っているなら、離婚して慰謝料を請求できるかもしれません。モラハラ離婚の慰謝料相場は数十万円〜300万円前後ですが、より多くの慰謝料をもらうためには、モラハラ行為の証拠をしっかりと集めておくことが必要です。

モラハラ夫と話し合いで協議離婚ができるケースは極めて稀です。そのため、離婚のときには協議離婚ではなく、調停離婚や裁判離婚になる可能性があるということは覚悟しておきましょう。

協議離婚で解決できなければ、裁判所に申し立てて調停離婚をすることになります。そこでも夫婦が離婚に合意しなかったら、裁判で離婚をすることになります。モラハラで離婚する場合は、モラハラ夫が離婚を拒否することが多いため、最終的には裁判まで行かなければ離婚できないケースが多くなっています。

裁判までいくとなると、離婚成立までに短くても2年くらいはかかってしまうもの。できるだけ早く離婚を成立させるためにも、できれば早い段階から弁護士に相談しておくことをお勧めします。